研究実施計画書

Ⅰ.研究の内容
1.研究の題目
『課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業』(グローバル展開プログラム)
「国民国家型の大学歴史教育をグローバル化時代に適応させる方法に関する国際比較」

2.実施機関 国立大学法人大阪大学

3.代表   文学研究科・教授 堤 一昭

4.研究の目的・意義
(1)【問題意識】 もっとも基本的な問題意識は、歴史学の伝統的な水準の高さおよび歴史への大衆的関心と、その一方で長年の国民国家的枠組みによる教育・研究がグローバル化の時代に顕在化させている限界との明瞭なコントラストという、東アジア諸国に共通の問題にある。国民国家的枠組みの限界とは、たとえば自国史と世界史の科目・専攻としての分立のマイナス面を指す。日本の大学の場合、これは2022年度から予定されている高校「歴史総合」の発足にも、教員養成などの面で対応できない危険性をはらむ。もうひとつの限界は、自国史はもちろん外国史ですら、しばしば自国民専用の性質をもち、成果発信や教育も多くが自国語でし かおこなわれないことである。
 「大学教育の質保証」にもかかわるこれらの問題は、原史料の読解と無縁では成り立ち得ない大学歴史教育の性質から言っても、「日本史・東洋史・西洋史の3分野体制の解体」や、ありきたりの英語化などの安直な方法で乗り越えられる単純な問題ではない。むしろ求められるのは、ローカル・ナショナル・リージョナル・グローバルや非領域的ネットワークなどの視点を柔軟に連結・統合できる視座の構築、それに大部分の教員・研究者が必要最低限の英語を使用する一方で、対象や参加者によっては多言語(日本語学習中の外国人にわかる易しい日本語も含む)を混用した活動をおこなう環境と能力の形成であろう。 

(2)【本研究の目的】

 上述の問題意識にもとづく本研究は、大学歴史教育の内容や方法をよりグローバル化時代に適応したものとすべく、大阪大学(および分担者が在籍する静岡大学、立命館アジア太平洋大学/APU)がもつ歴史教育や、グローバルヒストリー・地域研究の研究上のネットワークを活かして、次の3つの取り組みを実施する。 (a)東アジア域内外の様々なタイプの大学の歴史教育改革の内容や問題点を調査・比較する。 (b)それを参考にしながら、改善につながるような授業とそれにかかわるFDその他の活動を試行する(教養・専門・教員養成のいずれをも想定し、日本史と世界史の内容面での連結・統合、日本語・英語以外にアジア諸語なども必要に応じて交える多言語授業モデルなども順次構想する)。また、それらを効果的に組み込んだカリキュラムのあり方なども討議する(高大連携からも学ぶことにより、教養教育以外の大学教育では日本でほとんど行われていない実践 報告や研究授業を実施する)。(c)上記(a)(b)双方の成果の国際発信や、若手研究者のプログラム参画を通じた、海外での“武者修行”などを進め、ネットワークの恒常化をはかる。

 (3)【本研究の意義】 本研究が目ざすものは、個別分散的・非恒常的にしか行われていない取り組みを組織的・恒常化し、日本の歴史学の水準・蓄積を活かしながらこれをグローバル化に結びつけるうえで、大きな意義をもつ。具体的には、(a)自国史と世界史を有効に連結・統合した広義のグローバルヒストリーの教育・研究、ならびに(b)国内外で言語面も含め状況に応じてそれを実践できる方法論と人材育成の追求(従来の欧米中心史観によるものでなく「アジアを正当に位置づけ、しかも日本を完全に組み込んだ」内容をもつ)、(c)歴史教育のウェブサイトでの、日英両語プラスその他の言語を用いた日本初の発信などである。 しかも、上記のようにこれは東アジア共通の大きな課題であるため、日本で通常おこなわれる「欧米の先進事例の(日本との社会・文化的差異を無視した)紹介」や「(欧米と漢字文化圏以外への理解を欠くことの多い)日中韓だけによる“東アジア”協力」では、十分な効果を上げることが難しい。当事国、西側先進国、それに東南アジアまで本格的に巻き込んだ本研究の構成は、その点できわめて新しい。対外関係史以外の日本史研究においても、つねに世界史との比較や世界の学界での位置などを意識しながら研究・教育を実施する糸口がつかめるなど、歴史学の振興に資する幅広い効果が期待される。

5.研究内容・方法
 グローバルヒストリーや地域研究の研究蓄積、国内の高大接続なども踏まえた大学歴史教育の国際比較(東アジア・東南アジア・内陸アジアほかアジア各地)および、それにもとづく日本史と世界史の統合や授業の多言語化など教育法の開発を実施し、海外での授業参画も含めた多様な形態による海外発信と若手研究者の育成に結び付ける。
 研究プロジェクトチームのメンバー(Ⅱ.1.参照)以外に、特任研究員を雇用し、メンバーとともに事務局を設けて、研究全体の統轄にあたる。また年2回程度の全体会議を開いて、方針の決定や調整をおこなう。海外では、これまでも歴史教育やグローバルヒストリー研究などで協力してきた韓国・中国・ベトナム・シンガポール・アメリカやオーストラリアなどの研究者に協力を依頼する。
 具体的には、以下の2点を中心とした研究活動を行うとともに、それらをHPなどを通じて広報・発信していく。なお、これらの活動には、特任研究員を含む若手研究者を積極的に起用し、参画させる。

①歴史教育改革の比較研究
[調査事項]:カリキュラム・科目内容面での自国史と広域史や世界史の関係およびそれらの困難点、それとディプロマ・ポリシーや教員養成との関係、英語化や多言語化を含む教授方法の脱一国主義化、以上のための補助者の配置、若手育成や教員FD、授業研究・評価のやり方などについて、大阪大学のそれと比較可能なレベルまで調べる。
[調査方法]:先行研究・事例紹介の文献サーヴェイ、インターネットや書面での調査、授業開発グループとも組んだ協力大学への訪問調査など。

②授業モデルの開発・試行
 大阪大学以外に協力大学との相互乗り入れも含めて、2つのタイプの授業開発をおこなう。
 第一は日本史と世界史を連結・統合した講義・演習である。これは高校「歴史総合」に向けて教員養成面で必須であるため、教養課程での講義「市民のための世界史」など阪大での実績を踏まえたモデルを作る。
 第二に日本史やアジア史を含む講義・演習の英語化および多言語化については、外国語学部とも協力して多様な形態を試行する。
 両者とも、大阪大学歴史教育研究会、海域アジア史研究会・中央ユーラシア学フォーラムやグローバルヒストリーセミナーなど既存の研究会も利用しながら、中等教育での実践報告や教科研究活動も応用して、研究・評価・FD活動を試みる。本研究で蓄積した授業や授業研究の方法を展開していくための、新しいカリキュラム構想なども討議したい。

6.各事業年度における研究計画
(2016年度)
 研究プロジェクトチームのメンバー(Ⅱ.1.参照)による第1回の全体会議を開いて方針や分担を確定する。広報発信(責任者:藤川)、比較研究(責任者:堤)、授業開発(責任者:桃木)の担当者を中心とする事務局を立ち上げ、全体統轄の体制と具体的な運営の方法、役割分担について検討する。特に広報発信については連絡網、ウェブサイトの整備を開始する。本研究計画の英語版を作成し、それも併せてウェブサイトに上げることで、本研究の海外の研究者への広報強化を図る。
 研究内容については、上記①②の2つの目標および、それらに関連する大学の質保証と学生のコンピテンシー、歴史的思考力などの主題についての先行研究・議論や文献を整理し、本研究の実施にあたって念頭に置くべき事項を抽出・整理する。また①については、次年度以降の海外調査・国内のための調査事項を選定する。

(2017年度)
①歴史教育改革の比較研究:
主に書面・メールによる海外各大学の状況調査(一部は訪問)をおこない、国内諸大学や高校レベルの取り組みとの比較も試みる。

②授業モデルの開発・試行:
 日本史と世界史の連結・統合についての授業実践と高大連携を活かした検討評価を推進する。また、英語使用に慣れていない人々の参加の便を図るために、授業・研究会でも通訳を介したり、既存の外書講読形式なども利用しながら実施する(この年度のシラバス作成が前年秋であるため、可能なものから試行)。
 高大連携の研究会、グローバルヒストリーセミナーなどでの報告・授業研究をおこなうほか、夏と冬の2回全体会議を開催し、成果の共有やその後の方針の討議をすすめる。海外の研究者も夏季に参加させる。海外の大学への訪問調査を実施する。これらの活動には、メンバーからの代表者のみならず、若手研究者(大学院学生・ポスドク)も参画させる。これらの若手研究者は、国内の分担者の大学の取り組みにも参加させるほか、海外派遣にはのべ5名程度を同行させ、可能な場合はサマーセミナーや授業に参画させる。
※この会計年度から特任研究員を雇用して事務局に参加させる。
※広報発信として、HPに①、②の活動を掲載するのに加え、高大連携、大学教育などの活動情報を、日英の両言語(必要な部分ではその他の言語を加える)で、コンスタントに掲載する体制をつくる。

(2018年度)
①歴史教育改革の比較研究
 韓国・中国・ベトナムなどの大学の訪問調査を中心に実施する。ここでは自国史と世界史・アジア史の関係、成果の発表言語などの共通のトピックに加えて、特に成果の発表言語に関連する翻訳・通訳についての対策や人材育成に関して調査したい。

②授業モデルの開発・試行
 日本史と世界史の連結・統合、日本史・アジア史で英語使用に慣れさせる授業などのほか、文学部・外国語学部などで、必要に応じ英語・日本語と対象地域の言語を組み合わせた授業をビルマ史、スウェーデン史などで試行する。他方、それらの授業の中で、出席している留学生と教員・日本人学生が分かりやすい日本語で(内容のレベルを下げずに)意思疎通をすることも、日本語教育の専門家の助言を得ながら試みる。
※前年度と同様に、以上の成果の報告や研究討議を既存の研究会で随時おこなうほか、5月と冬季に全体会議をおこなう。8月のAAWH第4回大会(中国・長春)で、本研究が目ざす新しい大学歴史教育について討議するパネルを組む(中国の大学調査は、ここでおこなう)。
※以上の活動、特に国内外の授業に若手研究者を参画させる。海外には、のべ5人程度の若手研究者を派遣する。
※広報発信として、上記の研究成果や関連資料・教材の掲載など、HPの内容を充実させる。

(2019年度)
①歴史教育改革の比較研究

②授業モデルの開発・試行
 ①、②ともに、課題を続行するとともに、夏までにとりまとめをはかる。ベトナム語を用いた多言語授業など、授業の幅も広げる。①の比較研究では「欧米」と一括されがちなヨーロッパとアメリカ、それにオーストラリアなどの差異と独自性、アジア各地域の間(たとえば日中韓などの東アジアと東南アジア、内陸アジアなど)での差異やそれぞれの内部差にも焦点を当てる(東南アジアでいえば、東アジアと似た国民国家モデルの影響が強いベトナムと、そもそも国民国家が成り立たず欧米と直結したシンガポールなどの多様性も興味深い)。それにより、“一方的な「外国をモデルとした、日本の教育研究の改善」ではない双方向的な取り組み”を②において可能にするような分析を心がける。
※年度前半に、国内組織「高大連携歴史教育研究会」の大学教育分科会で成果報告の会をもち、国内への成果普及の機会とする。
※8月に最終シンポジウム(3日間程度)を開催して成果を総括するとともに、成果出版の方針を決める(AAWHの雑誌Asian Review of World Historiesでの特集、多言語を併用した書籍の出版などいくつかの方法が考えられる)。また本研究終了後の協力、とくにウェブサイトの維持や若手研究者の“海外武者修行”の継続、大阪でのサマーセミナー開催などについて話し合う。
※広報発信としてウェブサイトに加え、ブログなども使った双方向化の方法を検討・実現する。

7.研究期間
2017年2月~2019年9月

Ⅱ.研究実施体制
1.研究プロジェクトチーム

研究代表者等の別

氏 名

所属機関・部局・職名

研究項目

研究代表者

つつみ・かずあき 
堤 一昭

大阪大学・文学研究科・教授

研究総轄・比較研究

分担者

ふじかわ・たかお 
藤川 隆男

大阪大学・文学研究科・教授

広報発信

分担者

ももき・しろう 
桃木 至朗

大阪大学・文学研究科・教授

授業開発

分担者

いけだ・かずと 
池田 一人

大阪大学・言語文化研究科・准教授

世界の大学歴史教育

分担者

いいづか・かずゆき 
飯塚 一幸

大阪大学・文学研究科・教授

国内の大学歴史教育

分担者

さかじり・あきひろ 
坂尻 彰宏

大阪大学・全学教育推進機構 ・准教授

教養教育

分担者

いわい・じゅん 
岩井 淳

静岡大学・人文社会学部・教授

高大接続と教員養成教育

分担者

まつい・だい 
松井 太

大阪大学・文学研究科・准教授

史学系専門教育

分担者

あきた・しげる 
秋田 茂

大阪大学・文学研究科・教授
(未来戦略機構第9部門長)

グローバルヒストリーとの接続

分担者

Gerold Krozewski 
(クロゼウスキ ジェロルド)

大阪大学・未来戦略機構第9部門・教授

同上

分担者

ふるや・だいすけ 
古谷 大輔

大阪大学・言語文化研究科・准教授

地域研究との接続

分担者

なかむら・つばさ 
中村 翼

大阪大学・文学研究科・助教

自国史教育の国際化

分担者

ふじた・かよこ 
藤田加代子

立命館アジア太平洋大学
アジア太平洋学部・准教授

同上




III.研究実施スケジュール
2016年度

2017年度

2018年度

2019年度